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Armored Core二次創作小説

Last Raven-Unknown-


§1・1‐VS.カスケードレインジ


「国家の最終兵器とやらがこんな子ども達だとはな」

ブリーフィングルームを出た直後、BJはこちらを指差して嘆いた。それに同意するように頷くラ・ルーはACのドライバーとしては長過ぎる金髪をかき上げ呟いた。

「ただでさえ無理のあるミッションだというのに、こんな実戦経験もない子どもを作戦に盛り込むなど正気とは思えない」
「・・・大体ノーマルAC20機で傷もつけられないような相手と戦うこと自体が、俺にとっては有り得ないことだがな」

沈黙を保っていたクロウも諦めた表情で話し出す。 他の2人は互いを睨み合ったまま後ろを着いて来る。 イワン=シエルとフリップ=フロップだ。
誰もがブリーフィングで聞かされた企業の新型AC、ノブリスオブリージュの戦闘能力に愕然としていた。 桁違いの破壊力、全包囲展開型のエネルギーフィー ルド、優に従来のACの最大全速を上回る通常ブースト。 どれをとってしてもかなう相手では無かった、例えドミナントと呼ばれたレイブン達であっても。
結局先程のブリーフィングでも作戦司令部は彼らを説得する事は出来ず、時間稼ぎに国家軍の施設を案内させているのであった。

「で? いつまでここに引き止めるつもりなんだよ」
「・・・・・・」

BJの質問を無視して先に進む。 口を動かす暇があったら手を動かせ、教官の口癖だ。 兵器はただ言われた通りに動けばいい、そうでなければ成り立たない。

「いい加減にしてくれないか? 私達には依頼を断る権利がある、何も国家と共に滅びる必要はない」
「こちらには企業側につくという選択肢もあるんだ。 それを潰すほどの何かをそちらが見せてくれない限り、俺はこの依頼を受けるつもりは無い」

ラルー、クロウの追及を聞いている内に訓練施設にたどり着いた。

「00043978番、お勤めご苦労。 すぐに7番シュミレータに入ってくれ、彼らの説得は私が請け負うとしよう」
「了解」

教官の指示に従い、ACシュミレータに乗り込む。 外見はただの箱だが中では限り無く実戦に近い状況を再現してくれる為、余りにも危険な操縦をすると実際 と同じ、もしくはそれ以上の被害を受けることがある。 その為、訓練であるにも拘らず負傷者や死傷者が出ることもしばしばあった。 だがそれほどの危険を 擁さなければならない程に国家の有する軍事力は脆弱なものであった。

「まさか、またこんなシュミレータに乗せられるとは、思ってもみなかったぜ」

シュミレータ内で待機しているとまたもやBJの嘆きが聞こえて来た、黙れないのだろうか?

『00043978番、これよりBJと対戦してもらう。 お前が勝てば彼らは作戦に協力してくれるそうだ、遠慮せずやってくれ』
「了解」

ようやくシュミレータに乗せられた意味を知る。 レイブン達はあのノブリスにかなわないという理由で協力を拒否している、ならば対抗できると確信させる何かを見せつけてやればいい。 そういうことだろう。

『遠慮されるほど落ちぶれた覚えも無いんだが、こちらも全力で当たって構わないんだろ?』
『あぁ、そうでなければ賭けとして成立しまいよ。 00043978番、アセンブリをC03-HELIOSに設定しろ』

C03-HELIOS、ミラージュの軽量OB型コアにロングレンジライフル、ASTライフル、強化型多弾頭ミサイル2基、マルチブースターを搭載したC02-URANUSの後継機だ。 重量こそ増えているものの、OBを採用した事でより瞬発力が高くなっている。

『・・・ミラージュ純正はクロノスまでじゃないのか? まぁいい、こっちはいつでも行けるぞ』

BJの声音が僅かに変化した。 今の彼はインターネサインを、パルヴァライザーを破壊した時と同じ顔をしている。

「ヘリオス、準備完了」
『バトルフィールドをアリーナに設定、時間制限無しだ』
「了解」『当然だ』

メインディスプレイにアリーナが映し出される。 障害物の一切ない単純な、それ故に難易度の高いフィールド。 サブディスプレイに機体情報が表示されると、メインディスプレイにREADYの文字が浮かび上がる。

『それでは始めよう。 READY GO!!』

教官の合図と共にGOの表示が点滅する。それとほぼ同時にヘリオスのOBは発動していた。
直後、前方から押し潰さん限りの圧力が掛かり肋骨が軋む。それでも足りんとばかりにマルチブースターを吹かし、多弾頭ミサイルを敵機「カスケードレイン ジ」に向けて放つ。 OB、マルチブースターの加速度を得て通常の2倍近くのスピードで襲いかかるミサイルは、カスケードレインジの目の前で4つ、8つと 分裂する。

『速いな・・・だが』

敵機に殺到するミサイルが一瞬の内に姿を消す。

『伊達や酔狂で英雄呼ばわりされてる訳じゃ無いんでな』

マニュアル操作によるミサイル迎撃。 並のレイブンならばできない、そもそもやらない技を平然とやってのけた矢先、カスケードレインジの右手のレールガンがけたたましい音を立て光を帯び始めた。

「・・・産廃か」
『それは如何かな』

そう言った刹那こちらの頭部を音速の弾丸が打ち抜かんとする。 見えてからでは遅い、マルチブースターを横に噴かし直撃を避けるも左肩に装備していた多弾頭ミサイルが吹き飛ぶ。 ミサイル攻撃は通用しない、そう判断し右肩のミサイルもパージする。
そして産廃と侮っていたレールガンだが、どうやら本来予定されていた性能を完全に発揮していた。 恐らくBJ本人が勝手に完成させたのだろうが、それさえ なければカスケードレインジにはまともに使える武装はブレードのみとなる。 ならば音速の弾丸さえ封じれば負ける要素はなくなる。
引っ切り無しに飛んでくる音速の弾丸を小ジャンプ移動で躱しながらライフルとASTライフルのダブルトリガーでカスケードレインジの右腕を集中的に攻撃する。

『狙いが見え見えだぞ、坊主』

BJは右腕を庇うように旋回し、肩の中型ロケットで牽制する。 それを見越して突如回り込む方向を逆転させ、再び右腕に狙いを定めようとした時そこにはレールガンが無かった。

「!!」
『足りないな』

こちらが困惑する隙をつき光波を伴ったブレードが右脚を切り裂いた。 すぐさまブースターを噴かし体勢を立て直し距離をとる。一度倒れたらACは自分の力で立ち上がれない、姿勢制御を調整する間を与えず多弾頭ミサイルを撃ってくるBJ。
カスケードレインジのAP残量は未だ60%弱、こちらは先ほどの一撃で半分近くAPを削られている。 加えて片足となれば勝敗は誰の眼から見ても明らかだった。 ただ二人、教官と00043978番を除いて。

『00043978番、分かっているな?』

教官からの通信、負けたらどうなるかなどいわれなくたって分かっている。 役に立たないものを何時までも手元においておく必要など無いのだ、ここでの敗北は戦場での敗北となんら変わりはない。

『お喋りする暇があるとは、俺も嘗められたものだな』

カスケードレインジが再び刀身に光波を溜めながら接近してくる、迷っている暇は無かった。 OB を起動しカスケードレインジの頭上を飛び越える。 ブレード光波が残った左脚を掠めたが然したるダメージにはならない。 すぐさまミサイルとロケットで追 撃を試みるカスケードレインジ、だが要らぬ贅肉をそぎ落とされたことによりさらに速度を増したヘリオスにはどちらも追いつかない。 だがその速度に伴うG は凄まじく肋骨が不快な音を発していた。
再びカスケードレインジの右腕を集中攻撃する。 BJも既にレールガンをパージしているためか庇うことなく、むしろダメージを右腕に集中させる。 レールガンではなく左腕にあるブレードこそがBJの最大の武器、故に右腕が大破しても彼は接近をやめなかった。

「・・・それが」
『?』

それこそ彼が犯した唯一の失敗。 自身の最大の武器が手元にあるからこそ、他の大事なことに気付けない。
カスケードレインジの猛攻に退き撃ちで対応しながら目的の場所まで移動し、打ち切ったロングレンジライフルをパージする。

「アンタの」
『・・・まさか?!』

ライフルをパージしたその手でフィールド内に放置されていたそれを拾い上げトリガーを引く。 銃身に収束する光、けたたましい轟音を上げるそれを飛び上がったカスケードレインジに向ける。

「敗因だ」
『くそがっ!!』

音速の弾がカスケードレインジの頭部を打ち抜く。 システムリカバーの為に斬撃が中断され地に落ちる敵機に追い討ちをかけんとASTライフルとレールガン を打ち込む。 それを闇雲に回避するカスケードレインジ、システムリカバーをマニュアルに切り替えカメラの復旧よりも先に回避行動をとったのだろう。
少しずつ距離を離してカメラ機能の復旧を完了させたBJはディスプレイに映し出されたものを見て咄嗟にシートの脇をまさぐる、が目的のものは無かった。 その直後飛来した8つのミサイルがカスケードレインジを襲い、遂にカスケードレインジは爆発した。


『・・・・・・』
『よくやった00048769番。 これで納得してもらえたかね、こちらにも勝算があるということを』

シュミレータから転げ落ちたBJを見下ろし教官は自信たっぷりに言い放った。 血が流れているこめかみを押さえながらBJは悔しそうに視線を逸らし、シュミレータルームから出て行った。
彼が出て行くのを確認してシュミレータから飛び降り、教官の下へ駆け寄る。

「どうした?」
「彼が油断さえしなければこちらが負けていました。 賭けには勝ちましたがこれでは実戦で役に立つかどうかという肝心な部分に疑問を抱かせる要因になるのではないでしょうか?」

そう、本来の目的はBJに勝つことではなく企業の新型ACに対抗できると確信させること、たとえ彼を倒したとしてもこのようなギリギリの勝利では意味が無 いのだ。 それを考えるとこちらはその最も重要な目的を果たせなかったことになる。 とすれば何かしらのペナルティがあると思わざるをえなかった。

「なるほど、確かにその条件はクリアできたとはいえないな。 だが少なからず彼らの実力に匹敵するということは実証できたのだから、最初の条件どおり彼らに拒否権はなくなる」
「・・・ではペナルティは」
「まずは医務室へ行け、実戦で使い物にならなかったらそれこそ意味が無いだろう。 ついでにゲストの相手もしておいてくれ」

そういうと教官は他の訓練兵の指導に戻っていった。


言われたとおり医務室へ行くと頭に包帯を巻いたBJとそれに付き添うラルーがいた。 ドアが開いたのに気付きこちらを見据えたがすぐに目を逸らした。 そ れを気にすることもなく治療の為に耐Gスーツを脱ぐと、胸の辺りが黒ずんでいた。 やはりGに耐え切れず肋骨にヒビが入っていたようだが寝れば治るだろう と思い、テキトーに湿布を貼って包帯を巻いた。
そもそも軍に拾われてから戦術訓練以外のことをしていないのでどう治療すればいいのかが良く分からなかったのだ。 包帯の結びに手間取っているとクロウが他の二人を連れて医務室に入ってきた。

「BJがやられるとは。 代表にする奴を間違えたかもしれないな」
「何だよ? 俺じゃなきゃ勝てたっていうのかよ」

クロウの皮肉に怒りをあらわにするBJ、それを制してラルーはクロウを睨みつける。

「相手のアセンブリが分からない、と言って逃げたクロウにいわれる筋合いは無い」
「正論だな。 だが少なからず付け入る隙を与えたのはBJ自身だ、実戦で同じことをすれば間違いなく死ぬぞ」
「・・・分かってら」

聞いているのも億劫なので外に出ようとドアに手をかける。

「そういえば小僧、あの教官の正体を知っているのか?」

ラルーに呼び止められ振り返る、その場にいる全員の視線が自分に向けられている。

「過去にレイブンとして活躍したとしか」
「奴が”使徒殺しの聖者”だということも知らないのか?!」

昔、とある任務で13人のレイブンの内、ただ一人を残してその全てが殉死するという不可解な事件があった。 その生き残りは事件の真相を黙秘し続け結果的 に他のメンバーを殺した罪で牢獄に入れられ、バーテックス襲撃事件まで服役していた。 その生き残りがあの教官だとラルーは言う。

「奴の所為で多くのレイブンが死んだ。 その挙句使徒殺しの真相さえも明かそうとしない、そんな奴が人にモノなど教えられ――」
「随分な言われようだな」
「「!!」」

突然ドアが開きラルーの口が止まる。 そして溜まっていた怒りの矛先を現れた教官に突きつける。

「久しぶりだと言うのに随分なご挨拶じゃないか、ラルー」
「貴様のような大罪人がこんなところで何をしている!」
「せっかく兄弟子が挨拶しに来てやったってのにそれじゃあ、エクレール師が泣くぞ?」

こんなくだけた教官を見るのは初めてだった、とはいえここにいる誰からも歓迎されていないらしく言ってるそばから教官の顔面にBJの拳がめり込み、倒れた教官に馬乗りになって胸倉を掴む。

「汚い口で師匠の名前を呼ぶなよ、小熊の子供が! アンタの所為で師匠は死んだんだそ!」
「それについては否定しないが、俺の教え子に負けるような奴にとやかく言われたか無いね」
「んだと、お前の所為でアン――」

まくし立てる後頭部に教官の安全靴が突き刺さり、BJが崩れ落ちる。 それを退かして立ち上がると教官はこちらを睨んだ。

「何処まで聞いた」
「使徒殺しの聖者、だと」

そうか、と呟くと教官は深々と溜息をついた。

「なら教えてやらんとな」



§1・2‐VS.bitter tears


『発信者不明の依頼を請けるだなんて何考えてるんですか!』

ヘッドホン越しに響くオペレータの声、エマ・シアーズが怒るのは理解できなくは無いが耳元で大声を出すのも如何かと思う。

「三半規管がイカれたらどうすんだよ。 それにこの依頼は俺にだけ送られた訳じゃ無い」
『?』
「エクレール師やゼロにも来てたらしい。 そうだろ、先生?」

OBで飛び込んだ広い空間に上位ランカーとそれに匹敵する新参ランカーが集まっていた。

『うそ、いつの間に!?』

突如レーダーに現われた複数の熱源、その全てが緑色のマーカーであることにエマは安堵する。

「遅いぞ、中熊! トライウィングは重量型では無いだろうが」
「エマを説得するのに時間が掛かったんだよ」

ACトライウィングから飛び下りながら遅刻の言い訳をすると、『わたしの所為にしないで!!』と首にかけたヘッドホンからエマの声が響き笑われる羽目になる。

「あれ、何でお前が居るんだよ?」

エクレールの隣で仏頂面しているカラードネイルを指差す。 当の本人は一度こちらの顔を見るとすぐにそっぽを向いた。

「この依頼を請けたゼロをそこの仏頂面が殺しちまったもんだから、その穴埋めとして来てもらったんだ」
「あぁ、それでグラッジがあんな事になってんのか」

カラードネイルの愛機、グラッジは本来深緑の迷彩の衝撃力重視の中量2脚型なのだが、両腕と頭だけが赤の迷彩へと変わっていた。

「親の敵のパーツを大事に使うとは粋なことだな」
「丁度破損部位が真逆になったから利用してるだけだ」

それだけ言うとカラードネイルは愛機の方に行ってしまった。
ここに集まっているのは、フォッグシャドウ、ロイヤルミスト、ワルキューレ、エクレール、カラードネイル、レジーナ、スパルタン、ドランカード、アイロ ニー、アップルボーイ、エース、メビウスリング、それに俺ミドルベアを入れて13人だった。通常の作戦では有り得ない力のインフレーション、例えヴィクセ ンが大量に降って来てもこのメンバーならば容易く撃退できるだろう。

「そんな容易に事では無いだろうな。 仮にそうだとしても補給車両を数台用意すればこの半分でも足りるだろう」

この戦力をフルに使わなければならない程の作戦、全くもって想像出来ない。

「エマ、作戦開始時刻は?」
『後20分程度ですね。 そろそろACに戻って下さい』

エマの言葉で皆が動き出す。 トライウィングのコックピットに潜り込み通信回線を協同作戦用のものに切り替える。 トライウィングは武器腕ブレードと高機動ミサイル、ASTロケットを積んだ格闘タイプの中量2脚型だ。
以前は形見のダブルウィングに乗っていたが、ミッション中にエクレールのデュアルブレードで大破した。 それ以来彼女を師と呼びアセンも今のモノとなった。

『そういえばさっき誰もレーダーに映らなかったのは何ででしょう』
『グナーとラファールのステルスを広範囲に展開していた』
『残り回数が些か不安だけど大事には至らないわ』

答えるはエクレールとワルキューレ、両極端とも言える戦闘スタイルの二人の共通点は意外にも多くその点を活かした結果がこれだ。 隣接してステルスを発動させ相乗効果により通常の何倍もの範囲を隠し、ミサイル・オービット・EOを無効化できる。

「相手がFCS並みの照準をしてこない限り安全だもんな」
『FCS並みの照準をしてくる奴がいうな』
「先生に逢わなけりゃそんな技習得しないで済んだのに」
『・・・作戦開始まで後1分です。 システムを戦闘モードに切替えて下さい』

カメラに光が灯り、エネルギーが全身に供給されていく。 各部の動作チェックを終えて時計を確認、残り十秒をきっている。

『3、2、1、作戦開始。 未だ敵勢力の情報がありません、慎重に行動して下さい』

合図と共に動き出す13機のAC、俺とエクレールを先頭に長く暗いトンネルを進む。 その先にある巨大闘技場が今回の戦場らしいが道中全くといっていいほど敵性情報は入ってこない。

トンネルの半分辺りに差し掛かった時、トンネル内が淡い緑色に光り始めた。

『中熊、トラップらしき物を一度でも見たか?』
「いや、何も無かったけど…」
『各機APが減少しています! 理由は分からないけど進行を急いで下さい!』

いつの間にか1000近く減っているAP、今もなお減り続けているが、外気温、機体温度共に平常値でレーザーやマシンガン等トラップも確認できない。

『クソォ、タンクだから速度が出ねぇ』
『OBに換えておくべきだったか』

スパルタン、ロイヤルミストが遅れ陣形が瞬く間に崩れる。 先頭組がトンネル出口にたどり着いた時、エマが悲鳴をあげた。

『トンネル内に高EN反応…爆発する?! 早く逃げて!!』

眩い閃光がトンネルを蹂躙する。 脱出に間に合わなかったロイヤルミスト、ワルキューレ、ドランカード、スパルタン、メビウスリングの反応は完全に消滅していた。

「…今のは何だったんだ」
『分かりません、企業にもコーテックスにも該当する情報が見つからない状態です』

コーテックス所有のアリーナの2倍近く広い闘技場には天井がなく青々とした空を雲がかすかに漂っている。 先の爆発で部隊の半分近くを失い生き残ったメンバーもAP残量が芳しくない。 加えて装甲の至る所が腐食していた。

「あの光自体にやられてたのか?」
『多分そうでしょう。 トンネルが光り出すまでAPに異常ありませんでしたし』
『…上空に機影? 急接近している、オペレータ解析急いでくれ』

グラッジの指差した方向を見ると、黒い点が緑色の光を纏ってこちらに飛んで来ていた。 近付いてくるにつれてハッキリと見えてくる輪郭、流線型の漆黒のボディに見たこともない銃器やキャノン、そしてその周囲を覆う緑色の光。

『機体データ無し。 間違いありません、アレが目標です!』
『迎撃態勢に移行する。 各自散開!!』

エースの掛け声とほぼ同時にブースターを噴かし八方に展開する。 その直後、八卦の中心で黒い機体から放たれた巨大な榴弾が爆発した。 優に30米は離れていたのにも拘らずAPが500近く持っていかれた。
大きく抉られた大地に黒い機体が降り立つ。 両腕に種類の違うライフルを持ち、右肩に大型のグレネードキャノン、まったく分からない拡張兵装、左腕に描かれた血涙のエンブレム、そして一際異彩を放つ複眼カメラ。

『何なのコイツ!?』
『気をつけろ、ただのACじゃ無いようだ』

トライウィング、ラファール、シルエットが黒い機体に飛び掛かる。 敵は複眼をギョロギョロ動かし周りを確認している。

『もらった!』

ブレードレンジに到達したラファールが切り掛からんと踏み込んだ瞬間、黒い機体が視界から消えた。

『んなっ!』

レジーナの悲鳴が聞こえた直後、エキドナの反応が消える。 その背後にはライフルをエキドナのコアから引き抜く黒い機体。 橙色の眼が次の獲物を探している。
グラッジがエキドナごとグレネードとバズーカで打ち抜くが、肩や胸から噴射炎を出しながら巧みに躱す黒い機体。

『ミサイルフルロック、発射します!』

エスペランザの垂直ミサイルが飛翔する。 それに合わせてシルエットのステルスミサイル、トライウィングの高機動ミサイルが黒い機体に放たれる。
黒い機体はミサイルを引付けるように後退、垂直ミサイルが上昇を止めた瞬間謎の拡張兵装から大量の何かが吐き出された。 それに吸収されるかのようにミサイルが吸い寄せられ、あらぬ所で爆発する。

『フレアか?! アレではミサイルを無駄にするだけだぞ』
「戦闘機に積むもんだろアレ」

使えないミサイルをパージしてロケットで牽制する。 だがその大半が躱され、当たった弾も光の壁に防がれてしまう。
だがチェインガンやショットガンを継続的に受けるとエネルギーフィールドが剥れるらしく、フォグシャドウやアイロニー、エースへの接近を避けている様におもわれる。

『…効いてない訳では無さそうだな』
『確かに度々敵機のエネルギーフィールドは張り直されていますね。 そこを狙えば恐らくは』
『連携か…趣味に合わないが仕方ない』

フォグシャドウ、エース、アイロニーがエネルギーフィールドを破り、カラードネイル、アップルボーイが敵機の足留め、エクレールと俺がロケットとブレード で仕留める。 至極単純な、だが考え得る最良の作戦だ。 黒い機体の損傷は多くて40%、少なくとも30%はいっている。 こちらのAPは残り30%程度 だが数の暴力で何とでもできる。

『行くぞ』

前衛の3人が突撃、距離をとろうとする黒い機体に衝撃力の高いバズーカやロケットを浴びせ動きを封じる。 危機感を覚えた敵機がOBを起動させるがエネルギーフィールドの消滅の方が早かった。
動きの止った黒い機体をグレネード、ミサイル等の高火力兵器が襲う。 それから逃れる為に敵機はグレネードを自らの足元で爆発させた。 包囲網から逃れ背面ブーストで後退りして包囲網を形成していた5機にライフルの銃口を向ける。

『今だ!』

アイロニーの合図と同時に上空からASTロケットを降らしながらトライウィングが黒い機体に切り掛かる。 数が合わない事に気付いていたのか即座に照準をトライウィングに合わせトリガーを――

『引かせはしない!』

――突如レーダーに現われたラファールのデュアルブレードが黒い機体の両腕を切り落とし、トドメの空中斬りが複眼を吹き飛ばした。

終わった、誰もがそう思っていた。

「…終わった、よな? エマ、これより帰還する」
『……』

返事が無い、インカムの故障を疑いつつもう一度呼びかける。

「エマ? 何かあったか?」
『南西10km先に謎の機影を確認。 約20秒後にそちらに到達します』

淡々と情報のみを伝えるオペレータ、この状況下での敵の増援は死を意味する。 半ば諦めたように溜息をつき、その折を各機に告げる。 その死刑宣告に唖然としながらも、一同にはどうする事も出来なかった。


20秒、時速2000kmで飛んで来るソレから逃げる事は不可能。
19秒、そもそも残りAPは10%をきっていて先程のトンネルを通過る事は不可能。
18秒、コロシアムの壁が高すぎる。
17秒、ジェネレータ容量、出力、ブースター推力の問題で上からの脱出は不可能。
16秒、大気汚染警告により機外への脱出不可能。
15秒、エマ・シアーズとの契約を破棄、一方的に通信回線を切断。
14秒、意識が朦朧としてくる。
13秒、武装の残弾数は無に等しい、交戦不可能。
12秒、グラッジの頭部レーダーが目標を捕捉。
11秒、アルカディアのスナイパーライフルの射程距離に到達。
10秒、目標をカメラアイにて確認、純白の2対の翼。
9秒、目標がエネルギーフィールドで覆われているのを確認、軽く絶望。
8秒、右腕のライフルが黒い機体と同じデサイン、ちょっとした発見。
7秒、肩のエンブレムが印象的だった。
6秒、操縦桿を握る手に力を込める。
5秒、残された全ての武装を起動、狙いを定める。
4秒、目標が変形し人型になる、若干の既視感。
3秒、青いギザギザの複眼を黒いシャッターが隠し、腕や脚から謎の突起。
2秒、目標が光に包まれる。ただ単純に綺麗だと思った。
1秒、発信者不明のメッセージ『ナンノタメニタタカウノカ』。意味不明。

カウントゼロ、トンネルを襲った爆発と同じモノがコロシアムを吹き飛ばした。






































48時間後、ただ1人が帰還。


§1・3‐BRF.ノブリス・オブリージュ


教官の告白から数時間後、ローゼンタール社より二度目の対AC戦闘訓練の申し出が送られて来た。
訓練とは言うものの実際は見せしめと大差ない。 勝ち目のない国家軍の兵士達に暗に投降を仄めかし、機能しなくなった国家を追い込む。

「力をちらつかせた交渉とはこの事か」

シエルが唇を噛みながら呟く。 以前にも疲弊した国家の隙をつき企業が好き勝手軍備を強化するという件があった。 あの時も国家に泣き付かれ、規格外の敵と戦うことになった。

「敵が分かっているだけマシだな」
「それに弱点の見当もついてる。 問題は作戦通りの立ち回りが出来るかどうかだ」

教官、ミドルベアがあげた弱点。
一つ、あのエネルギーフィールド、正式名称「プライマルアーマー(PA)」はマシンガンやスラッグガン、プラズマなどで減衰し、スナイパーライフルやレーザー、レールガンなどは防げない。
一つ、PAがないとOBを起動出来ない。
一つ、爆発的な機動力故に紙一重の回避を行えない。
一つ、特殊な操縦機構の問題から継戦能力に優れない。 AMSと呼ばれる新技術は使用する人間に当り外れが激しく、コジマ粒子と呼ばれる新型ACの原動力はあらゆるモノに悪影響を及ぼす。
一つ、ミサイルセンサーが固定搭載され、生態センサーや暗視スコープが搭載されていない。

「この内相手の自滅は起こらないと見た方が良い。 搭乗者のレオハルトのAMS適性値はかなり高く、安定しているからな」

そう言ってキーボードを叩く教官、正面モニターに先にあげた弱点が表示され、継戦能力に関する記述が二重線で消される。

「そこで特に活用したい弱点が各種センサーの有無だ。 敵を暗闇に誘い込み常時固定砲台からミサイルを垂れ流し相手の索敵を阻――」
「待ってくれ! 高々一機の敵を倒すのに一体いくら予算をかける気だ」
「――倒せるならいくらでもかけてやるよ、難なら自腹切っても構わん。 よって作戦の開始時刻は夜になる為、それなりの覚悟をしておいて欲しい」

要するに暗視スコープかそれに代わる何かを用意しておけ、という事だろう。 機体色を夜間戦闘用に変えておく必要もありそうだ。 更にミサイルセンサーを 外しておかなければこちらの索敵も大きく阻害される事になる。 コストも高くリスクも高いこの作戦、得るモノが無ければ国家は終わる。

「俺とフリップの機体にはENシールドが装備されてるから基本的には誰かのフォローに回る」
「承知」

ENシールドに名銃の後継機、ミサイルを搭載したフリップの乗機「オミクロン」、右肩にENシールドを搭載したトライウィング。 どちらも中量2脚型なので防御力は十分ある。

「BJとクロウは中距離からの射撃で確実にダメージを与えてくれ。 …予め言っておくが武装は無闇にパージするなよ」
「言われなくたって」
「ただの嫌味だ」

真剣に返事をするBJに突っ込みを入れるクロウ。 BJのカスケードレインジは先のシュミレータでアセンブリを確認しているがクロウの乗機は中距離型なのだろうか。

「シエルとラルーの機体は装甲が薄いから回避最優先、俺の指示があるまで手を出すな。 ノブリスの主兵装はライフルだが威力も弾速もスナイパーライフルを軽く上回るぞ」
「分かってる」
「ロックさせなきゃ問題ない」

ラルーの乗機「楊」はグナーに装備されていたステルスが装備されてるからブレードさえ警戒しておけばまずダメージは無い。 シエルの乗機「ECL-ONE」はOBとターンブースターを搭載しているのでこちらもそう簡単には被弾しないだろう。

「まぁこんな感じなんだが何か問題点があったら言ってくれ。 当然黙殺するが」
「自分は何をすればいいのでしょうか?」
「……」

無言、本当に黙殺されるとは思わなんだ。 しばらく何か考えるようにしていた教官、深い溜息をつき頭を抱えた。 問題でも有ったのだろうか?

「当初の計画ではお前を使う予定はなかったからそもそも作戦に組み込んでなかった」
「最悪だな、同情する」
「……」

悲しくは無いが非常に複雑な気分だ。 普通忘れるか?

「戦闘技術でこいつ等を抜いてても如何せん実戦経験が無いのは事実だからな。 戦場でウロチョロされたら気が散って仕方が無い」
「……」
「そりゃいいな。 だったらとことん邪魔になって貰おうじゃねぇか」

押し黙っていたBJが両手を打った。 何か思いついたようだがいい予感はしない。

「敵の注意をお前に引き付ければその分だけ俺たちがやり易くなる。 要するに囮だ」
「名案だ、たまにはいい事を言うじゃないか」

茶化す教官に噛み付こうとするBJ。 この二人は平和に付き合うつもりが無いのだろうか。

その後、もう一度各々の役割を確認してブリーヒィングは終わった。


格納庫、歴戦を生き抜いて来たACがズラリと整列し、最終点検を受けていた。

「これが私の機体ですか。 純正のヘリオスではないようですが」
「あぁ、更に重量を減らしてEN消費量も抑えてある。 戦闘中にチャージング何か起こしたら、あっという間に蜂の巣だからな」

笑えない冗談を言いながら教官、いやミドルベアと呼ぶべきか。 鴉、ミドルベアは新型ACの撃破を条件に国家軍によって釈放されたのだ。この作戦が成功すれば後は用済み、失敗しても死は免れない。

『この作戦の実行が決まった時から俺はお前達の教官じゃなくなってるんだ。 師として仰ぐ必要はない』

ブリーフィングルームを出る時、ミドルベアが言った言葉。 あれ以降訓練の指導者は国家の人間に戻り、教官は後輩(?)達にちょっかいを出しているだけだった。
最期の出撃を前にベテラン達が何を思うのか、それは未だに実戦経験のない私にはまだ解らないモノなのだろう。

「機体のアセンに問題があるなら今の内に言っておけ? あと四時間したら嫌でも乗ってなきゃならんのだから」
「いえ、そう言う訳では」
「あ、機体名か! そういえば考えて無かったな、何が良いかね」

…会話が成立していない。 だが確かに自身の機体に名前を付けないというのはあまりやりやすいものでは無い。 機体に対する愛着が無ければ生存率は大きく下落する、という持論を隣りに居る男が幾度となく説いていた。

「…サバイバルウィング」
「サバイバル・ウィング。 生き残る為の翼、良いんじゃないか」

本作戦での自分の最大の役割は生き残る事、対新型AC戦闘用に育てられた少年兵軍団「AMIDA」達を生かす為のデータ収集が国家軍上層部からの直接の命 令。 つまり国家軍にとってこの作戦はただの様子見で、召集した熟練の鴉達は捨て石に過ぎないという事。 実行部隊と本部との認識の違いによって起こる問 題をクレストの一件から何も学んではいない様だ。

「今回のお前の役割は死なない囮だ。 作戦の大きなポイントだからな、頼んだぞ」
「了解」

そう言うとミドルベアは自分のACドックに歩いて行った。 自分もサバイバルウィングの最終調整の為にコックピットに潜り込んだ。
通常のヘリオスのコアと脚を残し、腕と頭をクレストの軽量型のパーツに変更されている。 OBの大量使用のことを考えジェネレータは発熱量の少ないモノを、ラジエータは多少重くてもEN付加の少なく放熱性能の良いものを選んである。
冷却性能位ならオプションでも補う事はできるが、スロットはただ一つのオプションによって埋まっていた。
INTENSIFY、擬似的に強化人間と同等の力を操縦者に与える禁断のパーツ。 レイヤードで確立しサイレントライン到達後、その力に恐れを抱いた企業の手によって闇に葬られた筈のモノが何故ここにあるのか。
ミドルベアが大破した僚機から回収したのか、はたまた国家が予め所持していたものなのかは分からない。 だがAMIDAである自分にこれが必要なのかという疑問が起こる。

AMIDA、国家が生み出したACを動かすだけのヒトガタ。 薬物投与、遺伝子操作、一部器官のサイバネティック化等による肉体面の強化、生後間も無くか らの戦闘技術、操縦技術の刷り込み、実戦に勝るACシュミレータによる技術面の強化。 10歳に満たない少年達が武器を手に戦場へ赴く、どこの国でもよく あった事で特別な事もない。 ただ扱う武器が大きいだけだ。
かく言う自分も物心ついた頃からACの操縦桿を握っていた。 それ以外のことをする必要がなく、食事と言えば数粒の錠剤と点滴注射が朝夕2回ある位で、そもそも食事という概念ですらミドルベアが教官としてやって来るまで知らなかった。

そんな訓練を受けて来たAMIDA達にとってキャノン発射時の反動抑制なぞ朝飯前だ。 それに自分の機体、サバイバルウィングにはキャノン系の武器を搭載してないのだから必要性を感じなかった。


所変わってローゼンタール本社ブリーフィングルーム。

「対AC戦闘訓練の開始時刻が十六時、臭いな」

ネクスト、ノブリス・オブリージュがリンクス、レオハルトは計画の変更を聞き首を傾げた。 前回の戦闘訓練で味を占めた上層部が調子にのってカスタムACとの戦闘訓練を国家側に取り付けさせた時と同じ、言い知れぬ違和感を抱いていた。

「あれだけの実力差を見せつけられて、何故――」
「自棄を起こしたか、何か小細工を用意しているか。 どちらにせよ貴公のやるべきは変わらん」
「承知している。 形骸化した国家を打倒し世を導く事こそ、我々騎士の務め」

レオハルトの答に満足した様に頷く老人達、かつて貴族階級にあり今尚それに誇りを持つorしがみつく時代遅れ共。 所詮はただの株主だろうに。
内心で唾を吐き老人達に会釈し、レオハルトはブリーフィングルームを後にした。

「ご苦労だったな」

ブリーフィングルームを出てACドックに向かおうとした矢先、しゃがれた声に労われレオハルトは振り向いた。 痩せ猪の老人、他の株主と違い自身もACのドライバーだった過去を持つ。

「エンディミオン卿」
「ジェントリン卿にも困ったものだな。 カスタムACをノーマルACと同じ尺で計るな、と忠告しておいたのだが」

没落した家の再興を自らの腕一つで成し遂げた、老人達の間でも一目置かれている彼の言葉を持ってしても、本社最大の投資額を誇るジェントリン卿の勢いを止める事は叶わなかった。

「御子息が生まれてから一層張り切っている様だが…」
「まぁ今は戦いに集中する事だ。 聞いた話では希代の英雄達を召集したらしい」

そう言って一枚のディスクを差し出す老人。

「敵の頭は間違いなく使徒殺しだ。 特に三足烏の機体には注意する事だ」
「御忠告感謝する、エンディミオン卿。 私とてそれなりの策は考えている」

老人からディスクを受け取り、レオハルトはACドックに向かった。


老人から受け取ったディスクの情報を見て、レオハルトは失笑した。

「まったくなんという情報網をお持ちなのだ」

召集された6人の鴉のパーソナルデータとアセンブリ、今回の作戦の概要と役振りが事細かに記されている。 依頼内容によって機体構成を大きく変えるNo.2448(クロウ)のアセンでさえ押さえているのだから笑う他なかった。
後から知った話だが、エンディミオンの現役時代の知人が国家軍にスパイを送り込んでいる為、軍内部の情報を簡単に入手できるらしい。

内容を確認し改めて作戦を立てた者に驚異の念がさした。 国家軍に対してネクストに関する情報を公開したのは、先の戦闘訓練の映像のみ。 であるからにし て各種センサー類の有無やコジマ粒子のことなど分かる筈が無い、のにも拘らずこの作戦の立案者はまるで見て来たかの如くそれらを知り、逆手にとろうとして いたのだ。 警戒するな、という方が無理な話。アセンもPA貫通力の高いEN系の武器を主体に構成されている。
従来のACに装備されていたENフィールドの多くはEN系の武器に対しての効果が高かったが、プライマルアーマーはEN系の武器を防ぎきれずそのまま貫通してしまう。 だが、その欠点は知られる筈が無かった。

「予想以上に楽しめそうだな」

レオハルトは口元を吊り上げるとゆっくりと破壊の天使の元へと歩んで行った。
追記に続く


§1・4‐VS.Noblesse Oblige


15時50分、旧レイヤード・512区画上、圧倒的な存在感を放つローゼンタール社の新型ACがノブリスオブリージュは夕日を背に宙を浮いていた。
対する国家軍最精鋭AC部隊は神々しい天使の出立ちに臆する事なく、悠然と構えている。

ミドルベア等は作戦が漏れている事を知らない。 ただ各が役割を果たさんと作戦開始を待っている。
レオハルトは油断こそしないがある種の安堵を感じていた。 だが彼はカスタムACの持つ無限の可能性を知らない。 アセンブリ一つで粗製にも、英雄にもなれるレイブン達の柔軟性、意外性をレオハルトは理解していない。


15時55分、サバイバルウィングのコックピットに収まる少年は、ノブリスの行動に言い知れぬ違和感を抱いた。

『どうしたAMIDA00043978、後5分で作戦開始なんだ。 緊張するなら始まってからにしろ』
「……」

スピーカ越しのミドルベアの的外れな激励、彼が隊長で本当に大丈夫なのだろうか?

「敵ACが着陸しない。 おかしくありませんか?」
『戦場では上をとった方が有利だからだろ?』

BJが口を挟む、確かにそれはそうなのだが、戦闘が始まってからでもノブリスの推力なら、余裕で上をとる事ができる筈だ。

「今から飛んでいる必要はない筈です。 何か――」
『今は自分の役割に集中しろ』

ラルーの辛辣な一言に一蹴され、やむなく口をつぐむ。 冷静を装ってはいるが緊張しているのが手にとる様に分かる。
だがやはり敵の行動は明らかに不自然だった。 本作戦はノブリスを地下都市レイヤードに叩き落とし、暗闇とミサイルで敵の索敵を阻害するというのがメイン。 そこまで持ち込めれば容易く撃破できるだけの戦力がこちらにはある。
だが、敵がレイヤードに落ちてくれなければこの作戦は成功しない。 その為には地上に敵機がいなくてはならない、なのに肝心のノブリスは地上50米でホバリング。 これでは意味が無い。

「隊長」
『言わんとする事は分かった。 ちょっと待ってろ』

そう言ってミドルベアは公共回線を開き、あろう事かノブリスのドライバーに文句を言い出した。

『勝負がつく前から見下してくれるとは、言い御身分じゃねぇか。 エンストする前に降りて来いよ』
『……』

しばしの沈黙の後、溜め息と共にノブリスは降下した。
思いの他あっさりとホバリングを止めたノブリス。 着地した直後予め仕掛けておいた地雷が爆発、衝撃で身動きのとれなくなったノブリスはアスファルトと共にレイヤードに落ちていく。

筈だった。

『シナリオ通りにはいかんさ』
「え!?」

着地直前ノブリスが両肩のマルチレーザーを起動、ACとは思えない垂直推力を見せつけ上昇。 タイミングを見計らい3×2、計6本のレーザーがアスファルトの裏に設置された地雷を打ち抜いた。

『現在16時00分だ。 そちらが指定した時刻だが訓練を始める準備はできているのか?』

ボカリと風穴の開いたアスファルト、その上をホバリングするノブリス。
作戦に気付かれていた事に動揺し、ミドルベアへの抗議が回線を飛交う。 だがそれらには耳を貸さずトライウィングは静かに前進し、ノブリスのマルチレーザーの射程圏ギリギリで止る。

『準備ならいつでも出来てる。 お前が作戦を知ろうが知るまいが、俺達のやる事に変わりはない』

そう言って振り返るトライウィング、カメラアイに光が灯り点滅する。 ソレが何を意味しているのか、自分は知らない。 だが英雄達は何かを察していた。 各々の配置に着く為に機体の方向を変える。
それに満足したかの様に頷き再びノブリスに歩み寄る三足烏、その眼は穴の開いたアスファルトに向けられる。

『お前を倒す。 それだけだ!』


怒号と共に機体がはぜる、それとほぼ同時に穿たれた穴から大量のミサイルがノブリスに襲いかかる。 それをQBや自由落下を駆使していなしながら、レオハルトは密かに舌打ちした。
まさか自分が穿った穴を利用されるとは思いもしなかった。 挙句、ミサイルに気をとられた隙に散開され、レーダーの範囲外まで離れていた。
廃ビルの乱立したフィールドでレーダーがまともに機能しない状況で、日没も近くカメラにも影響が出てきた。

『各機、作戦内容に変わりはない。 戦闘開始だ』
『『了解!』』「了解」

ミドルベアの号令と同時にOBを起動させノブリスに突進する。 シュミレータのそれと変わらぬGを受けながら多弾頭ミサイルを発射、突進に気付いたノブリスがライフルの銃口をこちらに向ける。

『未確認機体…追加のメンバーか』
「……」

放たれた銃弾を左右に避ける、かすめる弾丸はアスファルトに小さなクレーターを作り出す。 当たれば間違えなく致命傷、故に回避最優先。
両腕のライフルを連射するがPAに阻まれ、ノブリスには傷一つ付かない。

『当たるなよ、ガキンチョ!』

サバイバルウィングの6時の方向から光の塊が襲いかかる。 カスケードレインジのレールガンをギリギリのタイミングで躱し、廃ビルの合間に滑り込みジェネレータを休ませる。
光の弾を躱したノブリスを巨大な火球が立て続けに襲いかかる。 クロウのAC「シンタク」のASTリニアライフル2丁、膨大な熱量を纏った弾丸がPAを減衰させていく。

『流石にマズいな』
『言ってる場合か!』

火球と光弾のラッシュから逃れようとバックブースターをQBしたノブリスの背後、デュアルブレードを構えたトライウィングが通常の2倍近くの刀身のソレをノブリスに振りかざした。

『もらった!』
『遅い』

ソレに気付いたノブリスはスウェーの要領でトライウィングの頭上を飛び越えクイックターン、左手に備えたロングブレードでトライウィングを切り付ける。
咄嗟に拡張兵装のENシールドを展開し、ブレードを受け止めようとする。 だが桁違いの出力にENシールドが徐々に削られていく。

『防ぎ切れまい?』
『そいつはどうかな』

ミドルベアがそう言った直後、ノブリスとトライウィングの間にENシールド「普天」を構えたオミクロンが割って入る。 それと同時に拡張兵装のENシールドの出力が上昇、ノブリスが後方に吹き飛ぶ。


弾かれただと、反動抑制のために前方にQBを噴かしながらレオハルトは呟いた。 ビル程度なら一薙で倒壊させる威力を持つオーメル社最高のブレードが旧式 のENシールドに防がれ、更にはこちらが弾き返された。 どちらもキサラギ社製、相乗効果で出力が上がったのだとしても、想像の範疇から外れ始めている。

『厄介なことになって来たな』

右腕のライフルで牽制しながら距離をとる。 敵部隊の7割の位置が判明したが残りの2機が姿を現さない。 攻撃タイミングはミドルベアの指示、それまでは廃ビルの森に姿を隠している。
既に日は沈み暗視スコープの着いていないノブリスの視界は最悪、レーダーも先程の穴から飛び出している大量の熱源によって殆ど索敵に機能していない。 これ以上この状態でいるのは危険だと判断し、レオハルトは再び両肩のマルチレーザーを起動させた。

『趣味には合わんが仕方あるまい』


レオハルトの不可解な発言の直後、廃ビルの森をレーザーの嵐が襲った。 耐震偽装のビルはジェンガの如く崩れ落ち、真っ当なビルですら大きな風穴を開けられその口は焼け爛れていた。
一瞬にして焦土と化した市街地に身を潜める場所は無く、隠れていた筈のECL-ONEと楊もバッチリ確認出来た。 余りもの破壊力を目の前に言葉を失っているACチーム、そんな中ラルーが溜め息混じりにぼやいた。

『…案外、大雑把な奴だな。 新しいACは搭乗者を選ばないのか?』
「趣味には合わんと言っただろう」

ラルーの嘆息に訂正を加え、ノブリスの武装をライフルに切り替える。
再開したACチームの猛攻を舞う様に躱しながら、ライフルで牽制。 現状最も驚異とされる機体、即ち唐沢を装備する楊を第一の撃破対象に設定、瞬間時速2000kmのOBで一気に間合いを詰める。

「もらった!」

300米毎秒を維持する状態で射程ギリギリからライフルのトリガーを引く。 オートロックを利用し相手に反撃の隙を与えずに背後をとろうという作戦、PAがあってもEN系の武器は殆ど素通りしてしまう為撃ち合いは極力控えたい。

『速ければ良いというモノでも無いだろうに』
「ロックが……消えた?!」

ライフルの適性距離に入った直後、楊の肩部装備が紫色に発光、ノブリスのレーダー及びFCSから完全に姿を消した。

「これが噂のステルスか」
『余所見してっ――』

ようやく追いついたサバイバルウィング、トライウィング、オミクロン、ECL‐ONEからの追撃を最小限の動きで躱しながらもレーダーから眼を離さない。

『場合か!』
「…2、3、4」

ステルスはECMの様にレーダー機能やFCSに直接障害を与える訳ではない。 熱源感知やレーザー照準、超音波探知機に反応しなくする何かを機体の周囲に放出しているだけ。 機体その物に特殊加工が施されている訳ではないから、発動出来る時間と回数には限りがある。

「ならば」
『!?』

ステルスの発動から5秒、再びレーダー上に現われた楊はノブリスの背後。 ブレードを振りかぶる楊にクイックターンの勢いを加えたノブリスの一閃を回避する事は不可能。 咄嗟にEOを起動するが、機関銃程度の衝撃力でネクストの斬撃を止められる訳がない。

「これで一機」
『ちっ』

万事休す、ラルーは観念し迫る光波を見据える他なかった。 
次の瞬間、楊は胴を切り裂かれ焦土へと墜ちていく。

『ソレが貴方の筋書きか』

ブレードが触れる直前、横殴りの衝撃がノブリスを襲った。 リニアライフルやグレネード等よりも遥かに重く、今尚加速せんと唸りをあげている。


「今の内に!」
『小僧か…恩に着る』

従来のAC中最速を誇るヘリオスのOBによる体当たり、PAを持ってしてもこの質量と加速度は完全に殺しきる事は不可能。 事態を把握しきれていないノブ リスに零距離からライフルを連射、振り切ろうとQBを噴かすノブリスにマルチブースターで食らい着く。 アセンブリを戻しておいて正解だった。

『小癪な!』

レオハルトの激昂と共にPAの出力が上昇、領域内にめり込ませていたASTライフルが粒子に蝕まれ崩壊し始める。
爆発直前にパージ、EN残量を考えOBを停止する。 こちらの停止に気付いたノブリスが反転しブレードで襲いかかる。 が、それは予測の範疇。

『今だ!』

横凪ぎされるブレードをマルチブースターによる急降下で回避、体勢が崩れたノブリスに榴弾とハイレーザーが着弾、ECL‐ONEの軽量型グレネードと楊の唐沢だ。 そこにレールガン、ASTリニアライフル、ASTロケット、多弾頭ミサイルが殺到、爆煙に包まれるノブリス。
各機の最高火力を同時に浴びせたのだ、いくら新型と言えども無傷とはいかないだろう。

『やれたか?』
『でなきゃ困る』

サバイバルウィングの脇に降り立った楊、いつの間にか追加ブースターとステルスをパージしていた。

徐々に晴れていく煙と曇り空

『……最悪だな』

愚痴るミドルベア、雲の切れ間から月光が降り注ぎ、視界がクリアになる。 愚痴に秘められた2つの意味を理解する。

『あれが全力か。 底を明かしてくれた事には感謝しよう』

煙の晴れた先、月明りに照されるノブリス・オブリージュ。

「ノブリス・オブリージュ……損傷率40%」
『まだ勝ち目はある』

ミドルベアが呟く。 しかし月明りが出てきた上、廃ビルの殆どは破壊され視界的な優位は既に失われている。

『7対1とは言えここまでノブリスに傷を負わせるとは、従来機も捨てたモノでないな』


AMSから送られてくる機体の被害状況に顔をしかめる。主なダメージソースはハイレーザーだが顔をしかめたのは単純なAPの減少等では無く、他の所にある。
マルチレーザーの稼動部に亀裂、及び砲身内部に不純物を検出。 不純物は砲身内部を不規則に傷つけ半端なところで引っ掛かっている。

「…あの時か」

白翼の軽量機による体当たり、次いで零距離からの銃撃。稼動部の破壊はさておき砲身内部への攻撃は狙わずして起こる物ではない、そも狙ったとして6門をあの数秒で無力化するなど起こり得ない奇跡。
仮に起きたとしても、これが初陣になる少年がそれを成したとはとても信じられなかった。

既にお飾りと化した天使の翼、ローゼンタール社の象徴機として設計されたノブリス・オブリージュの象徴機たる所以。 例え使いモノにならなくても、容易く破棄する事は憚られた。

『何を迷っている』

通信、敵機からではなくローゼンタールの管制室から。

『何を迷っている。 そんな余計なものを背負っていて勝てる相手では無い事は十分わかっただろう』
「エンディミオン卿!?…しかし」

それではオーメルサイエンスの技師達に示しがつかない。 寝る間も惜しんで造り上げてくれたソレを易々と手放すことは出来ない。

『要らぬ執着は棄てよ! お前の役目を忘れたのか』
「私は企業の老いぼれ共の為に戦っているのでは無い!」
『なればこそ! 貴様の勝利を願う貴様が想う者達の為にも、戦わねばならんのではないか?』


「ノブリスの様子が変です。 今の内に仕留めた方が良いと思いますが」
『いや、迂闊に手を出すのは危険だろう。 もう一度さっきの――』
『いや、その必要はない』

ミドルベアの通信を遮るレオハルト、何かを吹っ切った様な含みのない真っ直ぐな言葉。

「マルチレーザーは使えない筈ですが。 まだ勝ち目があるとでも?」
『? あぁ、やはり狙ったか。 だがその程度のハンディでそちらに分があると思っているとは――』

轟音と共に地に落ちる3対の翼、その枷から解き放たれた人型が天に飛び立つ。

『思い上がりも甚だしい!!』

叫びと共に加速するノブリス、落下音から想定して計6000の重りを外した事によりアクティビティ、スタビリティ共に格段と上昇している。

『各機散開! 作戦は忘れた、アドリブで何とかしろ!!』
『『了解!』』

ライフルを構え突っ込んで来るノブリス、迎撃するにも照準が間に合わない。

「……速過ぎる」

ロックが間に合わないと断定、OBを起動。 ノブリスの右手人指し指が稼動、マルチブースターで右斜にスウェー、左腕に一次破損警告。

『これが本来だ』
『左様で御座いますか!』

トライウィングのデュアルブレード、サイドブースターの2段クイック噴射(ダブルアクセル)によるレンジ外への離脱、離脱地点への唐沢とその後継機の十字砲火、ダブルアクセルの連続噴射でジグザグ回避。

『退け!』

十字砲火の三次元方向、軽量グレネードを構えるECL‐ONE、回避可能の方向からは2筋のハイレーザー、殺られる前に殺る、榴弾の発射より先にライフルを放つ、構え動作中の回避は不可能。

『若い者には解らんか』
『ちっ、強化人間か!?』

構えキャンセルと動作に榴弾を発射、強化人間の特権その1、キャノン系武器発射時の反動抑制。 ライフルを回避しつつレンジ外でのブレード横薙、ブレードの形状を維持出来なくなった余剰のエネルギーが回転しながら飛び出す。 即ち光波ブレード。

『こんなモノ!』

ロングブレードの出力の位相を変化させ、光波を無効化。 そのままECL‐ONEに切り掛かる、サバイバルウィングが進路を横断、ブレードロックがずれる。

『目障りな』
「ソレが仕事だ」

OBで適性距離から離脱、それを連続QBで追いながらライフルを連射、機体を揺すりながら急所をカバー、マガジンが空になり再装填に数秒、サバイバルウィ ングの影からシンタクとカスケードレインジ、光弾と火球を紙一重で回避、リロード済みのライフルでASTリニアライフルを射抜き、ハンドレールガンをロン グブレードで切り裂く。

『っ、上手い』『元から要らねぇよ!』

破損した銃器をノブリスに投げ付けロケットで爆破、計3つの重火器が未使用の炸薬・ENを撒き散らし連鎖爆発、最大出力のPA(OPA:オーバードプライマルアーマー)で防御。
格納兵装からマシンガン、インサイドの背面機関銃とガイアのEO。 被弾を物ともせずロングブレードで切り掛かるノブリス、WL06LB4で迎え撃つカス ケードレインジ、レンジ僅か2米の差でロングブレードが右腕、WL06LB4がアンテナを切断。 が、ブレードの発動間隔は旧式の方が短い。ノブリスが構 えをとる前にWL06LB4の切っ先が整波装置を傷つける。

『くそ!』
『隙あり』

PAの乱れを調整するノブリスに多種類のミサイル群が迫る。
現状PAで防ぎ切る事は不可能、不具合は整波装置にありKP出力値にあらず。 PA展開中止、全てのKP出力をOBに供給。メーターの表示が赤くなる。
旧式のリミットカットに酷似した状態でOB発動、PAがない分機体に掛かる負荷や抵抗は凄まじいが推力・持続力は桁違いに跳ね上がる。

『振り切ろうと言うのか!?』
『全機集中砲火! フリップ、シエル、限定解除!!』
『『応!』』

オミクロンとECL-ONEがOBを起動、有り得ないEN出力は一時的に無限の力を発揮する。 これが本物の強化人間の力。

『逃がさん!』
『く、EN残量が…』

ノブリスOB停止、調整が完了したPAを展開、再び最大出力。 追随する2機の攻撃を受け止めた。
ライフルによる牽制、僅かなブーストで躱す火星人達。 サイド&バックブースターの連続QB。 斜めに後退するノブリスにAIが6時方向警告、サバイバルウィングがパージしたASTライフルに変わりハルバードを振りかざす。
狙いは頭部か背面の整波装置と断定、ノブリスの急上昇にブレードホーミングとマルチブースターで喰らいつく。

『愚直だな』

光波が頭部に触れる直前ノブリスがクイックターン、回転斬りを避けようと急降下、頭上を掠めるロングブレード。

「ワンパターンですね」
『正直者に死を』

突如左腕が破損、理解不能。 ノブリスの右脚にオイルと不自然な塗料。
所謂回し蹴りがサバイバルウィングの左肩に直撃し破壊された。

『終いだ』
『否』

衝撃で硬直するサバイバルウィング、トドメのロングブレード、割って入る普天。 弾き返せず普天ごとオミクロンの左腕が弾け飛ぶ。
ライフルを連射、その背後からEN弾と無数のマイクロミサイル、前方からはECL‐ONEの速射ライフルと硬直の解けたサバイバルウィングのライフル。
ミサイルが当たればPAは剥れる、ノブリスはギリギリまでオミクロンにダメージを与え誰もいない方向へブレードホーミング、突然目標を見失ったミサイルは直進して挟撃していた僚機に襲いかかる。

『これも予測済み、か』
『御名答』

着弾直前ミサイルにレーザー照射、ミサイル消失。 シュミレータで見せたBJの手動迎撃。 その間も左手の格納グレネードをノブリスに放つ。
ノブリスを挟み込む様にシンタクと楊が中距離から攻撃、その間をOBとQBを駆使して回避しつつ反撃。 背後からの榴弾が肩に直撃、再びリミットカット状態でOBを噴かす。


何かがおかしい、シンタクと楊を振り切りながらレオハルトは呟く。 わざわざ戦力を分散し、段々で攻める。 その結果こちらの対処が楽になり、相手は痛手を負っている。
前方にトライウィングを確認、両腕のブレードに暴発寸前の光波を携えこちらに向けて構える。
全てはその一撃の為の布石、そう考えるのが普通ならば答えは確実に別のモノ、この30分間で思い知らされた『彼ら』の常識。
周辺を確認、トライウィングの足元、開戦直後自ら穿った穴。 上空には浮遊機雷、ECMメーカー、ダミーメーカー。

「捻りのない」
『言ってくれるな』

あからさまなトラップを掻い潜りながら距離を詰める、尋常ならざるサイズの光波を飛ばしてくるが逆相ブレードとOPAでやり過ごしトライウィングに肉薄、構えかけのデュアルブレードをENシールドごと断ち切る。

「終わりだ!」
『お前がな』

デュアルブレードの肩部が展開、ロケット弾が射出、クイック噴射で回避を試みるが立て続けに着弾、人間FCSと呼ばれたミドルベアの真価。
次いでASTロケットが起動、退避の為OBを起動――

『出来る訳が無い』
「――チャージングだと!?」

機体を包むPA以外の不自然な放電、ジェネレータジャマーロケットによる一時的なEN出力の低下に連続QBを重ねた事でEN残量が底をつき、行動不能に陥った。


「チェックメイトだな」

ライフルによる牽制と歩行による回避しかできなくなったノブリス、ソレを取り囲む7機のAC。 両者共に機体からは火花を散らしているが、勝敗は誰の眼から見ても明らかだった。

『こちらノブリス・オブリージュ、レオハルト。 私の負けだ』

ノブリスがライフル、ブレードをパージ、PAを停止させる。

『エンディミオン卿から色々聞かされていたが、まさかこれ程までに後れをとるとは微塵も思わなかった。 こちらは作戦の内容まで知っていたというのに』
「結局作戦通りじゃなかったけどな」

レオハルトの感想に苦笑で返す。

「で、訓練である以上トドメは刺せない訳だが――」
『誓って言うが、こちらが勝った場合に置いても、追撃するつもりは無かった。 企業の意向云々に拘らず私自身がソレは許さん』

そりゃ良かった、呟き操縦桿を手放す。
これで御役御免、また薄暗い牢獄生活に逆戻り。 其れが一番平和な結末だった。








































『全く、手緩いにも程がある』

発信者不明の通信、その場にいる7機のACと1機のネクストに緊張が走る。

『この声……まさか!』
『各機散開!!』

何かを知っている様なレオハルトを遮りミドルベアが叫ぶ。 次の瞬間、ノブリスがいた地点にプラズマが着弾、瞬く間にレーダーが機能しなくなる。

『何……き…んだ』
『…が完……われ…る』
『……マによ…Mだ! 領…に出……とか…』

青白いプラズマの残滓が視界を埋め尽す。 各機の位置も把握する事が出来ない中、目の前に最悪の事態が舞い降りる。


『馬鹿な、何故その機体を!』
『回収したのか、模造品か』

楊とカスケードレインジの前に立ちはだかるは亜麻色の稲妻。 死んだ筈の師の機体が完全な姿で弟子達に襲いかかる。


『これまた似たような出立ちで』

シンタクの前にはダブルトリガーの小豆色のネクスト。 敵わないと知って尚、挑まなければならない事に嘆息しながら。


『御無礼』
『終止』
『会話をしろ』

オミクロン、ECL‐ONEに切り掛かる白銀の月光、ベテラン相手に反撃を許さない猛攻。


「血涙の紋章……隊長が言っていた黒い機体か」
『そうか……そう言う事か』
『傭兵の戦場に騎士は不似合いだ。 帰って王に忠誠でも誓っていたらどうだ』
『やはり貴様か! ベルリオーズ』

サバイバルウィング、トライウィング、ノブリスの前に降り立った漆黒の機体と紺色の逆関節。
膝をつく様に崩れ落ちるトライウィング、12人の犠牲を払って仕留めた相手が生きていた時点で彼の意志は砕け散っていた。


















結論から言ってプラズマの残滓が風に消えた時、ACチームは壊滅していた。
終わり



適当ですねごめんなさい。 オチに繋がる戦闘シーンがまだ書けて無いという事態、しかしながら既にこの続きが始まってしまっているため振り返るに振り返られなかった OTL
この話はかのPVでノーマルACがノブリス・オブリージュにボッコボコにされるのを見て、カスタムACならそうはいかないだろうという事で書き始めたもの でした。ちなみにこの話は国家解体戦争の直前のつもりで書いていたんですが、もしかして公式設定ではあのPVの時には既に始まっていたりするのでしょう か? 私には分からない

とりあえず詳しいアセンブリとか訳の分からない作戦の解説とかは、反響に応じて次回の更新でやっていきたいと思っていますので宜しくお願いします、ノシ
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